夢主=ヴィルヘルム
――――――
「あ……」
「どうしました、キア?」
父の暮らす邸からの帰りだった。
父と、キアの母と、私たちの四人でティータイムを過ごし、ぎこちないながらも比較的穏やかに過ぎていった時間。
それを思い返しながら二人で後部座席に座り、帰路についていたのだ。
そして信号につかまってすぐに、突然キアが固まってしまった。
その視線の先を辿ってみると、隣に並んだ一台の自動車に向けられていた。
不思議に思ってその自動車を良く見てみると。
「………ヴィルヘルム………」
運転席に居たのは、私とキアが『特別』に想う彼の人だった。
思いがけず彼を見れたことが嬉しい。本当に些細なことだと我ながら呆れもするけれど、
年中多忙で中々顔を会わせることが出来ない人だから、この偶然が僥倖に思えた。
彼の隣に座る、美しい黒髪の女性に気付くまでは。
胸元が大きく開いたスーツを着ていた。
赤く艶めく口唇は弧を描き、何処か妖艶な微笑を浮かべている。
少しだけ首を傾けて、誘うようにヴィルヘルムを見つめていて。
「「………」」
私もまた、キアと同じように動きを止めてしまった。
ただじっと、二人を見つめ続ける。
信号が変わり互いの車が動き出すまで、動き出してからも見えなくなるまで、ずっと。
並んでも見劣りしないどころか、正しく似合いの男女だった。
車中でも、街中でも、………人前で堂々と並んでいられる“女性”に、少なからず嫉妬した。
何度ヴィルヘルムとキスをしようと。
何度ヴィルヘルムに抱かれようと。
何度、愛を告げようと、私たちには不可能だ。
“男(同性)”である私たちには。
「……ルイーズ、何か良い酒あるか………?」
「用意させますよ。………強めのものを」
今夜は共に飲みましょう。
この胸の燻ぶりを曝け出して。
――――――
悲恋ちっくな感じ。
所詮キアもルイも男なので。
そしてヴィルヘルムは社会的地位がある(設定)ので
公式パートナーは女性じゃなきゃダメなので。
色々葛藤が生じるのですよ。可哀相だね、キアもルイも!(笑)
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