陽詠は10歳で一人旅に出た。
軒も馬も使わず、てくてくと歩いて邸を出て、街を出て、貴陽を出た。
休み休みであったのは確かだが、それでも常識的にこの歳で歩ける道程では無い。
こんなところでも己の異質さを見せ付けられて、苦笑が漏れた。
さて、そうしててくてくてくてくと歩き続けて、貴陽を出て。
紅家の木簡を見せ付けて堂々と関所を抜けた途端、藍家の影に拉致されて藍州に連れて来られた。
黎深と同年だと言う藍家三つ子当主は意外に可愛らしい奴らだった。
黎深ほどの崩れっぷりは見せなかったが、それでも陽詠の前では『当主』という顔が消え、
何だか『初めての友達に一喜一憂する子供』のようだった。
陽詠としても別に、黎深ほど藍家を嫌っては居なかったのでそこそこの付き合い方をすることにした。
それがまさか、後々面倒ごとを起こすことになるとは思わずに。
陽詠は戰華王が崩御する直前に貴陽へ戻った。
貴陽に入ると同時に紅家の影が付く。それは旅へ出立する時に命じていたことだったので、陽詠は特に何とも思わない。
むしろ黎深への伝達係として早速使い走りにしたくらいだった。
しかし、その後に起きたことには呆気にとられた。
自分が歩くその周囲で、紅家の影と藍家の影が小競り合いをしていったのだ。
藍家の影が、貴陽に入ったと同時に付いたのにも気付いてはいた。
何のつもりだあいつ等とは思ったが、貴陽帰還を知られて困るわけでも無しと放っておいた。
それが裏目に出たようだ。
紅家の影は、紅家の切り札たる己を護るため、その周囲に沸いて出た『不審者』を排除しようとしているのだろうし、
藍家の影は、当主の命を受けて、当主の『友』たる己を護りつつ当主らに情報を伝達するつもりで付いているのだろうし。
陽詠としては自分の邪魔さえしなければどうでも良かったのだが、行く先々で小競り合いを繰り広げる両家の影に辟易した。
紅家の影は黙って自分を見ていればいい。藍家の影は黙って己が仕事をこなせばいい。
なぜ一々突っかかる?
こんなところでまで紅家と藍家は仲が悪いのかと、呆れ果てた。
「双方とも、これ以上騒ぐなら私の手で排除してやろう」
誘導した街外れで、木々や藪に隠れて闘っている両者に一本ずつ小刀を投げつけると、ぴたりと小競り合いは止まった。
――――――
その後日。
『礼儀は守れと言っただろう。馬鹿三つ子!!』
『藍家と戦争したいのか、阿呆当主!!』
陽詠から届いた一行文に、紅藍両家の当主は顔を青ざめさせたのだった。
―終わり―
(紅家の影は当主から、藍家の影を見つけたらとりあえず牽制しとけと言われたらしい。
藍家の影もまた、ちょっかいかけられたら高く買っておけと言われたらしい。
それ故の怒り/人をダシにして喧嘩するんじゃない!!と)
………うん、駄文だ。
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